4月号 Night run 『夜桜を嗜む』
娘が2輪デビューした。
とはいっても、自転車だけど。
いままではペダルの無いストライダーという幼児用の2輪だった。
基本的には公道走行は不可のトレーニング用のマシン。
自転車は公道が走れるから、ある意味別物だ。交通社会が待っているのだから。
自転車の練習に行った公園や河川敷は桜が満開だった。
丁度いい頃合いだ・・・予てから計画していた仔猿での夜桜見物を実行しよう。
私の仔猿のバッテリーはヘッドライトを点灯したら20分が限界だろう。
片道10分以内の縛りの中でルートを練るのは案外面白い。
散歩よりも遠くへ行けるけれど、ドライブほどは遠くへ行けない。
念のための予備バッテリーも準備して出発だ。
夜風が気持ちいい。 春特有のにおい。 これは何の香なのだろう?
路地を繋いで目的地へ。
坂の上の小さな公園はまるで桜の花でできた屋根のようだった。
一つだけ設置された街灯の光が満開の桜を照らし、小さな公園がひときわ華やかに浮かび上がる。
先日ニュースで見た桜のライトアップはあまりにも下品で幻滅した。
ピンク色のLEDで照らされたそれは安っぽいCGのようだった。 人はヒドイことをするものだ。
だが、どうだろう。
古い水銀灯で照らされた目の前の夜桜は圧倒的な生命力を放出し息をのむ美しさだ。
よかった。
仔猿のヘッドライトがLEDでなくて。
電球のライトは確かに消費電力の割に暗いけれど、今日この瞬間には電球の灯りが似合っている。
キルスイッチを押してエンジンを止めた。
本当に満開だ。
少しも散っていない。独り占めの夜桜。
来年も来れたらいいなと思った。
帰り際、仔猿を押して公園をでるときに何か感じて立ち止まった。
ワッシャが2枚落ちているのが目に止まる。
ナットもあった。
見るとフロントのシャフトのナットがない(汗
これは偶然なのか、桜の心遣いなのか・・・ありがとう。
桜に命を救われた。 そんな不思議な春の夜だった。