10月号 『意匠を楽しむ』
その昔、大橋巨泉さんのコマーシャルと共に大ヒットした万年筆。
パイロット エリート。
リアルタイムで私はこの世に生まれていたか、いないかの頃。
その万年筆はサラリーマンのワイシャツの胸ポケットに差す事を前提に設計されてる。
底の浅いポケットに収まる短い全長。
それでいて、筆記時にはキャップをペン尻に差すことによって十分な全長に早変わり。
この意匠は不思議と海外の万年筆にはなかった。
あの頃の日本独自のものだ。
全盛期は日本の万年筆各メーカーからこのデザインの万年筆が発売され、サラリーマンと共に日本の経済を支えたそうだ。
万年筆が趣味の文具となった今、この意匠は廃れてしまったけれど。
目的のために突き詰められたその日本独自の意匠に、私は憧れの様なものを感じます。
とことんミニチュアサイズを突き詰められた仔猿。
そして、真面目に作られたそれぞれの部品。
小さいからこの程度でいいだろうではない。
もっと良くなるはずだ を地で行っていることが伝わる人には伝わるはずだ。
50年。
仔猿は50年後も保存されていることを目標に作られているそうだ。
私のパイロット エリートはそろそろその50年に達するだろう。
幾人の手を渡り歩いてきたかは知らないけれど、調整師の手を経えて手にしたエリートは掠れることなくインクを紙へ映す。
50年後、私亡き後にこのZ31Aを手にした方がメンテをしている最中に気が付くだろうか?
見えないところに奢られたチタンボルト。
質のいいメッキを施されたシャフト。
リヤ周りの巧みなフレイムワーク、
とことん軽量化されたハブ、その意匠になにを想うのだろうか?
※パイロット社のElite万年筆は数年前に復刻されて現在でも新品が購入可能です。
携行用の万年筆にしては贅沢な大型の金ニブを装備したあのままの姿です。